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風窓

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「 風 窓 」(第14回) 2008年5月14日

 先日、「児童養護を考える会」のメンバーとともに、東京・大田区上池台の児童養護施設「救世軍機恵子(きえこ)寮」(大坂太一施設長)を訪ねた。

 機恵子寮は、今から70年前、昭和13年11月の児童福祉法施行に伴い、「児童福祉施設」として認可された。施設の名は、日本人最初の救世軍士官である山室軍平氏の妻で、恵まれない女性や子どもたちの福祉に心血を注いだ妻「機恵子」に由来している。機恵子寮は、閑静な住宅街にある二階建ての施設(約660平方メートル)だ。戦前の施設が老朽化したため、昭和45年に新築され、庭は狭いけれど、卓球をしたり、ちょっとしたサッカーをしたりすることもできる。

 入所児童は、約30人。比較的低年齢の子どもが多いが、被虐待児の入所が70パーセントを占め、発達障害のある子どもも5人入所している。様々な複雑な問題を抱えて入所している子どもたちに、34人のスタッフが対応している。内13人が非正規職員で、多くのボランティアの方々が様々な活動を通じて子どもたちと関わってくれているが、職員の中には宿直が、月平均10回にも達するケースもあり、疲労困憊の様子がうかがわれた。

 「児童養護を考える会」は、塩崎恭久衆議院議員の呼びかけで発足したもので、「子どもの育ち場」として児童養護施設に入所している子どもたちをもっと私どもが理解をし、ややもすると社会の谷間に置かれがちな児童養護施設そのものの改善を目指す国会議員の会だ。まさに児童養護施設とそこで暮らす子どもたちに“政治の光”を注ぐことを狙いに、4年前に発足した。

 今、会員は衆議院議員26人、参議院議員7人の総勢33人で、私が会長を務め、塩崎氏が事務局長として様々なお世話をしてくれている。「一度、現場をこの目で見たい」との私の発案でこの日の視察となったもので、私、塩崎議員、山際大志郎議員や厚労省職員、全国社会福祉協議会役員ら多数が参加した。

 児童養護施設は全国に559か所あり、保護者の困窮や病気、虐待などの理由で、保護者と一緒に暮らせない18歳までの子どもたち、約3万人が暮らしている。入所理由で最も多いのが、この日視察した機恵子寮同様に虐待によるもので、全体の60パーセントを占めているという。

 私たちが「こんにちは!」と大きな声を掛けると、小さな暗い部屋で皆ニコニコ頷いてくれた。中には「こんにちは!」と元気良く返事をする子どももおり、私はホッとし、救われた気持ちだった。

 しかし、中には母親と同居している男から暴力を受けたりしていた子どももおり、それぞれの子どもたちの衝撃があまりも重いだけに、心は閉ざしているという。男性のソーシャルワーカーの一人は、子どもの癒されない心の“キズ”を同じ目線に立って、一緒になって癒すことに努めているという。一人の子どもに40分も50分も掛かるケースも少なくない。そうやって、一緒にいてじゃれ合っているうちに自然と溝が埋まっていくのだそうだ。

 1階には食堂があり、食事は原則としてみんなで一緒に食べる。小学生以上は2階に8人部屋が3つあり、高校生には個室もある。一つの浴室を30人の児童が交代で使用しているから、それは戦場さながらの賑やかさだという。最近は、地域に密着して関わりを深めるため、グループホームを確保しているところも少なくない。ここの機恵子寮も車で5分程のところに、一般の住宅をグループホームとして使用している。

児童養護施設

(児童養護施設「救世軍機恵子寮」を視察する丹羽代議士)

 最近、虐待による痛ましい事件は後を絶たない。児童虐待相談件数は、平成18年で37,323件となっており、平成10年当時、6,932件と比べても、その数は大変な勢いで増え続けている。

 行政も決して黙って見ていたわけではない。平成12年には児童虐待防止法が制定され、その後、平成16年、19年には法改正が行われてきた。平成19年の改正では、都道府県などの児童相談所が警察と連携してもっと家庭への立ち入り調査をしやすくした。これまでは虐待の疑いがあっても親が立ち入りを拒めば手を出すことが出来なかったが、知事の出頭要請や立ち入り調査を拒めば、法的な手続きにより強制的な立ち入りも出来るようになった。

 このほか、入所児童を親が強引に連れ戻さないよう、面会も制限をしたり、度重なる指導にも関わらず親が虐待を続ける場合には、子どもを施設に入所させたり、親権の喪失を裁判所に申し立てすることとした。また平成16年の改正では、同居人による虐待を放置することなども児童虐待の定義に加えたり、通告義務の範囲を拡大し、虐待と思われるケースもその対象に加えたりしている。

 さらに、児童相談所の児童福祉司の一人当たりの標準人口が「おおむね児童10万から児童13万」だったのを、「おおむね児童5万から児童8万」に改めたり、虐待防止のために生後4か月までの乳児のいるすべての家庭を訪問する「生後4か月までの全戸訪問事業」や、中・高校生の乳幼児ふれあい体験などを通じて、児童虐待を許さない社会づくりに取り組んだりもしている。

 それでも児童虐待が増え続けるのは、社会全体が殺伐としてきているのか、あるいは弱い立場に対する“いじめ”を増長している風潮によるものなのか…。私は児童虐待に対する課題の一つは、きちんとした親の更生プログラムが無いことだと思う。児童虐待防止法は、虐待を見つけ出したり、子どもを守ったりするためには有効だが、肝心の加害者である虐待する親に対しては何らの強制力を持たない。だから親が繰り返し自分の子どもに虐待を加えるケースも少なくない。

 米国では、更生プログラムを親が受けなければ子どもの引き取りが出来ないようになっている。暴力の連鎖を止めるにはこうした対策が必要であるが、わが国では子どもを保護することで精一杯で、親についての十分な教育まで手が届かないのが現状なのだ。

 国連の「児童の権利に関する条約」は日本も批准し、発効してから既に14年になる。この「子どもの権利条約」の前文で、「児童が、その人格の完全な、かつ調和のとれた発達のため、家庭環境の下で幸福、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長すべきであることを認め、児童が、社会において個人として生活するための十分な準備が整えられるべき…」と書かれている。子どもへの虐待は、まさに重大な人権侵害であり、緊急で適切な対応が求められているといえよう。

 深刻化する子どもへの虐待に民間団体もその防止に向けて動き始めている。私の地元、茨城県にあるボランティアグループ「CAPいばらき」は、つくば市、土浦市を中心に県南地方でも積極的に活動している。お母さんたちが自ら小学校に出向いて、寸劇を通して子どもたちに自分の身を守るために具体的な方法について、子どもたちと一緒に考えている。寸劇では「いじめにあったとき」、「誘拐されそうになったとき」といった状況を子どもたちに見せて、とっさのときに「逃げる方法」や「積極的に相談を持ちかける」ことを子どもたちに身をもって教えているという。

 NPO法人「児童虐待防止全国ネットワーク」では、行政や民間と一緒になって児童虐待を防止するための象徴として、「オレンジリボン」を付ける運動を展開中だ。全国各地でオレンジリボンを胸に付け、イベントなどを通じて、児童虐待防止への理解と協力を進めていこうというものだ。こうした地道な動きがやがて大きな広がりとなり、子どもの“尊厳”を尊重することが虐待防止に結びついていくことと確信している。

 子どもたちへの虐待は話を聞いているだけで、私は気が重くなり、ストレスが鬱積してくるような気持ちになった。何の罪も無い子どもの心身の成長を妨げ、将来にわたって深刻な影響を与えることをもっと真剣に考える必要があるのではないか。国連総会でも採択された児童の権利を守ることを実践するためにも、私たち大人が「オレンジリボン」を胸に刻み、子どもの尊厳を尊重するという個々の自覚が何よりも大切なことだと痛感した次第だ。

(丹羽記)

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