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「自立と連帯で皆保険制度の堅持を!」

2010/01/4

丹羽雄哉氏は、(2009年)12月11日、宇都宮市で開かれた独協医科大学脳神経外科の年次総会で講演。少子高齢社会を乗り切るため、誰もが応分な負担で、平等の医療を受けられる皆保険制度を守り抜く決意を改めて明らかにした。診療報酬については、医療費が増大による財源不足を考えると、当面、病院勤務医の待遇改善や、産科、小児科、救急医療といった特に医師不足が指摘されている分野に、まず重点的に配分し、難病の治療や高度な外科手術を行う専門医の評価も、その難度や技術にふさわしいものにするべきだとの考えを述べた。 [講義内容の詳報] →

 

→[講義内容の詳報]

少子高齢社会を乗り切るため、公平な負担で皆保険制度を守り抜く

  1. わが国の医療供給体制診療報酬配分の見直しを)

2. 高齢者医療制度(少子高齢化を乗り切るために)

3. 医師不足対策、地域医療再生(医師不足解消は喫緊の課題)

4. むすび「負担と給付」を明確にした体制づくりを)

 

 

 診療報酬配分の見直しを」

 わが国は、今日、世界最高水準の平均寿命(男性79歳、女性86歳)や、世界最低水準の乳児死亡率を誇っておりますが、これは先人からの智恵と努力の積み重ねと、それを支えた制度によって実現できた、わが国社会保障制度の偉大な成果です。

今、私たちが心すべきことは、いたずらに社会保障の危機や不安を(あお)のではなく、国際的にも高い評価を受けている社会保障制度、とりわけ医療制度を日本が作り上げてきたことに、もっと自信と誇りを持つことであり、これからの少子・高齢化の険しい道のりもまた、皆で支え合ってより良き方向へ歩んでいくことが大切だと私は考えています。

日本の、世界に冠たる「国民皆保険・国民皆年金」の体制は、制度発足から半世紀を迎えようとしています。わが国の医療保険、介護保険、年金制度は、社会保険方式によって「自立と連帯」の精神の下に成り立っています。しかし、わが国では少子高齢化が欧米の3~4倍のスピードで進行しているだけに、この皆保険制度、皆年金制度をどのように守り抜くか、このままの形でよいかの検討が大きな課題になっています。

今年は2年に1度の診療報酬改定の年ですが、どうも、「診療報酬の改定率をプラスに」という診療報酬全体の底上げをすべきだという議論が強く見られます。医療現場での状況を見ると、その気持ちは私にも理解できます。日々のお医者さんのご苦労を思えば、できればそうしたいとも思います。しかし、現実にその政策を実現していくとなると、話はそう簡単なものではありません。

わが国の医療費は、年々3%の伸び率で増加しており、2007年度には約34兆円に上りました。その財源をどうするかが、大きな問題なのです。医療費の財源は、4分の1を国庫で、残り4分の3は国民の皆様が負担する保険料によって賄われています。ということは、診療報酬を、1%引き上げるだけで国庫負担が約850億円増、保険料は約2,500億円の負担増になるのです。もちろん、窓口患者負担も増えます。このような多額の負担増を行う前に、まず行われなければならないことがあるのではないでしょうか。

“医療崩壊”が叫ばれる今、病院勤務医の処遇は未だに極めて厳しく、産科・小児科医の確保が大きな課題となっています。難病の治療や高度な外科手術を行う専門医の評価も、その難度や技術にふさわしいものとしていかねばなりません。私は、医療費の引き上げを論じるにあたっては、ただ一律に上げればよしとするのではなく、現場の事情に即して、まずは、診療報酬内部の配分の見直しを行うことが必要ではないかと考えます。そして、医療提供体制の課題解決のため、抜本的な制度改革に早急に着手すべきだと思っております。

 

 

 少子高齢化の波を乗り切るには」

人間が、一生の間にかかる医療費は、推計で平均約2,200万円という試算があります。その約半分が70歳以降にかかると見られています。今後の高齢化の急速な進行を考えると、医療費の増大は不可避で、この高齢者の医療費を、若い人も含めて国民全体で公平に負担していくことができるかどうかによって、世界一の長寿国の基盤となっている「国民皆保険」を守れるかどうかが決まってきます。

 この高齢者の医療費を国民全体で公平に負担する仕組みはいかにあるべきかを、10年越しの議論を重ねて得た結論をまとめたのが、昨年4月から実施された「高齢者医療制度」です。ところが、この新制度は、事前のPR不足などに加え、「高齢者の医療を差別するものだ」とか、「十分な診療や検査が受けられなくなる」といった間違った情報が流布されたこともあり、高齢者の皆様を始めとして不安と混乱を生じさせてしまいました。

 

簡単に説明しますと、高齢者医療制度の仕組みは、次のようなものです。

      わが国の国民医療費は全体で34兆円。うち、3分の1の11兆円が高齢者医療費。

      11兆円の1割、約1兆円が自己負担で残りの10兆円が高齢者医療制度からの給付。

      10兆円の半分の5兆円は公費(税金)で、残りの5兆円のうち、4兆円は若年世代が加入する健康保険や国民健康保険から支援をしてもらう。

      残りの1兆円を75歳以上の高齢者、1,400万人で、「割り勘」でお願いする。

 

このように、後期高齢者医療制度は、75歳以上の高齢者への給付の9割を、税金と若い人たちからの支援金を合わせた財源で支えており、決して75歳以上の方だけで保険を作っているのではありません。少子・高齢化が急速に進む中で、国民全体で高齢者の医療を守り、国民皆保険の体制を守るためにできた仕組みなのです。しかし、75歳以上の方の医療を保障する独立の制度を設けたことについて、高齢者切捨ての「姥捨(うばすて)山」などという過激で的外れな批判によって、お年寄りが何か差別されたように見られてしまいました。「後期高齢者」というネーミングのまずさも、不信を招くことになったのは極めて残念です。

 

ところで、国民皆保険ではないアメリカでは、国民全体の2割もの人々が医療保険に加入できず、病気になっても安心して医療にかかることができません。また、民間の医療保険に加入していても、加入する保険の会社や種類によって、どの病気がカバーされているのか知らないと、実際に病院に行ってから、「その病気は適用されない」などと言われ、戸惑うことも少なくないと言われています。

 

 例えば、盲腸の手術の場合、日本では2万円と入院費用を払えば済みますが、ニューヨークでは平均243万円もかかります。貧しい人はとても病院には行けないのです。日本の医療を、こうさせてはなりません。そのためには「皆保険」を守り、皆が公平に負担を分かち合う形で、少子高齢化を乗り切っていかなければなりません。こうした、それこそ、弱者切捨てのような体制を解消するため、オバマ大統領が、国民皆保険に取り組もうとしているのは、皆さん、ご存知の通りです。

 

現行の高齢者医療制度の廃止を主張する人たちもいますが、これに代わる有力な案の提示はありません。廃止すれば、以前の仕組みに戻ってしまうだけです。以前の「老人保険制度」という仕組みでは、高齢者医療の費用の分担の明確なルールがないまま、高齢者の医療費を若い方々に支えていただいていたため、関係者の不満も強かったのです。その仕組みに戻っても、それは負担の付け回しをする制度に逆戻りするだけです。

 

政権交代後、既に4か月になりますが、新政権では、この「後期高齢者医療制度」の見直しについて、ようやく検討を開始したところです。しかも、期間は2年程度かかるとのことで、実質的には、検討は先送りとなっております。

現行の高齢者医療制度は若干の手直しで、これからの少子・高齢化社会に十分対応していけるものなのです。市町村や関係者からも支持されているのは、これが公平な制度だからです。もちろん、見直すべき所はきちんと見直さなくてはなりません。私としては、見直しのポイントは、大きく4点になるのではないかと考えています。

 

(1) 後期高齢者の保険料負担のあり方です。当初、制度導入により低所得者や、被用者保険の被扶養者の保険料負担が重くなる場合がありました。これについては、既に制度導入時から予算措置で保険料を大きく軽減してはいますが、このあたりを制度的にもしっかり位置づけする必要があります。

 (2) 高齢者医療制度全体の一部負担のあり方です。現行では、同じ前期高齢者(65歳~74歳) であっても、70歳未満は3割負担、70歳以上が2割負担(現在、引き上げ凍結で1割負担)と、負担が「分断」されています。私は、前期高齢者については、2~3割の公費を投入して一本化し、もっと単純に、自己負担を、65歳未満は「3割」、前期高齢者(65歳~74歳)は「2割」、後期高齢者(75歳以上)は「1割」というように、3、2、1(割負担)として、国民にも理解されやすい仕組みにする。 

(3) 被用者保険の加入者は、引き続き被用者保険(地域保険=国民地域保険・職域保険=健保組合)に継続して加入できるようにする。前期高齢者医療制度について、被用者保険側の負担が重くなり過ぎることがないよう、一定の公費投入を前提に財政調整のあり方を見直す。

 

(4) “後期高齢者”という言い方は、高齢者の心情にそぐわず、デリカシーに欠けるので、「後期高齢者医療制度」というネーミングの見直しも検討する。

 

高齢者医療制度の充実は、言うまでもなく重要な問題ですが、今、被用者保険の財政も、高齢者医療制度への支援金や納付金負担で危機的状況に置かれているのです。わが国が世界に誇る国民皆保険制度を堅持していくためにも、被用者保険の現状もよく勘案しながら、高齢者医療制度の見直しを早急に実現して、国民の納得のいくものにしなければならないと考えます。

 

 

☆ 「医師不足解消は喫緊の課題」

今、医療現場では、医師不足や、救急患者の受け入れ体制、夜間の小児救急の不備、産院の不足など、国民の生命を守る医療提供体制が揺らいでいます。これを一刻も早く修復して、国民の安心・安全は確保することが急務です。

 

医師不足の問題については、わが国はこれまで、将来、医師は過剰になるとの見通しにより、医師の養成数を抑制してきました。しかし、医療の高度化と医療ニーズが増えるに従い、医師の数が追いつかず、全国的に医師不足が生じてきました。特に地方で深刻です。そこで、医師養成数を抑制してきた閣議決定を見直し、医学部の入学定員を、過去最大数を超える水準に増加させました。とは言え、新規入学の学生が医療の現場に立てるようになるには、10年近い時間がかかります。

 

そこで、今、直ちに取りかかるべきは、負担の大きい救急や産科、へき地の医療を担う医師に対する手当の支給への助成、医師派遣を行う医療機関への支援です。現実的な問題として、育児中の女性医師が勤務しやすくなるよう、短時間の勤務制度や夜勤明けの連続勤務を行わない交代制勤務を導入する病院にも支援をするなど、きめ細かく、即効性のある対策も講じていかなくてはなりません。

 

中長期的には、地域医療の確保に向けた構造的な対策も必要になっています。手術が必要でもベッドがなくてできない状況が出ています。その上、わが国では病院間の機能分化が不十分のため、重症患者を受け入れる急性期医療を担う病院の体制が手薄で、一人ひとりの医師の負担が大きく、救急患者などに十分対応ができないのが現状です。

 

手術後の転院先の確保なども必要です。退院後の受け皿となるリハビリテーションの機能を持つ病院や在宅における療養の支援が不足しているため、患者がなかなか退院できず、平均在院日数も国際的にみて非常に長く、それがまたベッド不足を生むという悪循環に陥っているのです。

 

高齢化と日進月歩を続ける高度な医療技術により増大する医療ニーズに応えていくためには、医療機関の連携が大事です。地域の医療機関が役割分担して、全体で一つの大きな病院のように機能する体制をつくっていくことが必要なのです。具体的には、重症患者に対する急性期の集中治療、容態が落ち着いた後の治療、その後のリハビリテーション、そして、在宅療養への支援などを、地域の各医療機関や介護施設などが連携して行えるシステムの構築です。

 

自民党政権下で決めた今年度の補正予算により、こうした体制づくりに向けて、3,100億円の「地域医療再生基金」を各都道府県に設置しました。もっとも、新政権で2,350億円に減額されましたが。私どもは、こうした取り組みを通じて、地域の実情に応じた医師や看護士の確保や診療機能の強化対策を進めようとしています。

 

 

   むすび 「負担と給付」を明確にした体制づくりを

 わが国は、依然として高齢化率が上昇し続けています。それに対し、出生率は、最近、若干改善してきましたが、未だに1.37という低水準で、世界的にみても超少子化国となっています。

 

こうした少子高齢化の進展に伴い、年金や医療、介護などの社会保障の給付費は、今年度約100兆円(98.7兆円)に達する勢いです。社会保障関係の国家予算も、今や24兆6億円にのぼっており、今後も増加の一途と見込まれます。国民所得の4分の1を越す大きな規模となった社会保障費ですが、その3分の2近くは、私たち一人ひとりが、そして企業が支払う保険料によって支えられているのです。

 

私たちは、「自立と連帯」の精神によって全国民が社会保険制度でカバーされる「国民皆保険、国民皆年金」の体制を作り上げてきました。今や、この社会保障制度は、国民の毎日の生活を支え、社会保障なくしては多数の高齢者の方々が途方に暮れてしまうまでの大きな存在となっています。

 

社会保障改革は、国民の要望を踏まえ、将来を展望しつつも、新たな環境変化に現実的に対応して行わなければなりません。50年前には考えられなかった、これほどまでの少子高齢化社会の到来がいい例で、将来と言っても、100年も先まで固定して考えるのはナンセンスです。22世紀も現在のような状況が続くと仮定して、非現実な改革案を示し、国民を不安と混乱の中に陥れるのではなく、先はしっかりと見据えつつも、時代の変化に応じて調整しながら、大局に立って一歩一歩改革に向けて駒を進め、国民に安心感を与える改革を着実に実現していくことが政治の役目です。

 

 年金、医療、介護といった社会保障の一体的な見直しが問われている中で、社会保障制度全体をどう再構築してくか、すなわち、毎年3%で伸び続ける医療費や今後さらに増大していく介護費用をどうコントロールするのか、また、年金の給付水準で高齢者の医療や介護をどこまでカバーできるのかを明らかにしていくことが求められているのです。

 

今、大切なことは、どこまで公費を導入することが適切なのか、そして「負担」と「給付」のあり方はどうあるべきか、ということを、地に足を付けて考えることです。大事なことは、何をするにも財源の確保をどうするかを忘れず、それを、誰がどう負担するのか、運用に当たって、どのようにして無駄を廃し、効率的な配分をするのかという現実論です。批判のための批判のような無責任な発言や実現への道筋が見えない理想論、ましてや、人気取りのための耳あたりのよいことを言い続けることではありません。そのためには、国民一人ひとりに理解と納得をしていただくよう、その実態を包み隠さず明らかにし、オープンに議論することによって、わが国の社会保障制度、特に、世界に誇るべき「国民皆保険・国民皆年金」の仕組みを、将来にわたって確実に維持していくことなのではないかと考えます。




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