一
私は先月27日から中国を訪問する機会を得ました。今回の訪中の最大の狙いは、安倍総理が就任早々に中国を訪ね、中断していた首脳会談を再開させて、ようやく雪解けムードになってきた日中間の友好を、更に一段と深めることにありました。
日本と中国は、歴史的にも深いつながりを持つ隣国であって、一衣帯水の関係にあります。わが国の安全保障の観点からはもとより、13億の民がいる成長著しいこの大国が、経済的な関係からみても日本にとって大変重要な国であることは、改めて私が申すまでもないと思います。
二
基本的にはそうした、善隣友好の立場ではありましたが、今回の訪中で具体的に最も私どもが力を注いだのは、中国が議長国である6か国協議への対応でありました。今年は日中国交正常化35周年と言う節目の年ですが、いま、東アジアにおける最大の課題は、朝鮮半島における非核化の問題であり、わが国にとっては北朝鮮の拉致問題の解決であります。既に6か国協議では、非核化を実現するため北朝鮮の核施設の稼動停止などを条件に各国がエネルギー支援を行うことなどの合意をしました。ただし、わが国としては、拉致問題の進展がなければエネルギー支援に加わらないとの基本的立場であります。
三
中国首脳との会見では、温家宝総理は拉致問題について穏やかな調子で「中国は理解と同情心をもっています」とだけ述べられましたが、私どもが期待した、温総理からの「中国が拉致問題への解決に協力する」と言う言葉はなく、私どもは、率直に申し上げて抜け道の見えないトンネルの中をとぼとぼ歩いている感じだ。
四
また、北朝鮮に強い影響力があるといわれる戴秉(たいへい)国(こく)外交副部長(外務次官)との間では、それこそ息詰まるやり取りに終始しました。しかし、戴副部長の発言は、「お気持ちは理解している。」とか「現在の情勢を見て、日本側はもっと切迫感を持つ必要があり、このままだと米国に立ち遅れることになりかねない」というもので、わが国への態度は冷淡とは言わないものの、かなりの温度差があるとの感を禁じえませんでした。
この問題については、日本国内の一部から、「バスに乗り遅れるな」といった意見もありますが、わが国の拉致問題に対する立場と対応については、各国とも基本的には理解しており、国内、さらには党内からも不協和音が出てくることを私は危惧しています。中国では「小異を残して大同につく」という言葉がよく使われ、交渉ごとでは、そうしたことも考えなくてはならない時もあります。しかし、北朝鮮の拉致問題とその後の対応は、“小異”などではなく、両国間の関係改善の根幹に関わることであることを忘れてはなりません。私どもは拉致問題について、不退転の気持ちを強くメッセージすることに今回の訪中の意義があったと考えております。
3月19日から開催された第6回の協議では、北朝鮮はバンコ・デルタ・アジア(BDA)で凍結されている自国関連資金が送金されていないことを理由に6者協議の主席代表会合への出席を拒否した。米国政府が凍結解除を指示したにもかかわらず、マカオ当局の判断なのか、極めて技術的なことなのかよくわかりませんが、実際に送金が実現していない。まったく何がどうなっているのか関係者すらよく分からず、北朝鮮に振り回されてなんのための六者協議か。その意味さえも問われかねない有様だ。
今回の件は、北朝鮮が相変わらず、自国の思い通りにならないと平気で他国との協議を一方的にボイコットするような国であることを表すものだ。このようなだだっ子を相手に交渉を進めることはしんどいことだ。我が国としては、対話と圧力を使い分けながら、ねばり強く相手の譲歩を引き出すほか有効的な手だてはないのが、現状だ。
五
一昨日から、知事選挙を皮切りに統一地方選挙がいよいよ始まり、私は岩手県の知事選の応援に行ってきました。地元京都では30日に府議、市議の告示ですが、我が党候補へのご支援を心からお願いします。そして七月には天下分け目の戦いとなる参議院選挙があります。私どもは政府与党として成果を示すことによって、堂々と戦いを展開する決意であります。
六
政権発足半年を目前にして、教育基本法をはじめとして、いろいろな政策で、ようやく安倍カラーが出始めてきました。国民の皆さまの立場に立つと、まだいくつかの課題がありますが、各社の内閣支持率も40%台で、概ね横ばいの局面に入っており、ほぼ下降傾向に歯止めがかかりました。いままでは、ちょっと政治の本質そのものから少しずれたような問題がクローズアップされていたきらいがありましたが、これから、いよいよ、政策を中心とした論議が行われ、さらに、安倍政権の姿勢が見えて来るとあえて皆様に申し上げたいと思います。
七
ところで最近、参院選に向けて党内のベテラン議員がいろいろな動きを始めたと伝えられていますが、その最大の理由は“アジア外交”だといわれています。しかし、安倍総理が真っ先に訪問した国が中国であり、韓国であり、4月には恩家宝総理が来日され、日中両国が戦略的互恵関係を深めている折に、「アメリカ一辺倒だ、アジアをないがしろにしている」との批判は、全く説得力を持たないのではないか。現に中国は、安倍総理が就任後、中国をまず最初の訪問国としたことを高く評価しており、私自身、温家宝総理から直接その旨を聞いております。
ベテラン議員たる方々は参院選を前にそうした動きは厳に慎んで頂きたい。むしろ指導的立場でありますので、わが党の勝利のためにも先頭に立って、むしろ安倍政権を積極的に支えて頂きたい。いま、大切なことはいささかのさざ波も立てず、挙党体制のもとで、地方選、参議選に向けて国民の理解を得られるようにお努め願いたい。
とくに外交問題は“水際”までとかねてから云われており、6カ国協議の対応には不協和音が生じないように私どもは心をくだいていかなければならない。
八
国民投票法案は、安倍内閣の重要法案の一つであります。既に水面下での民主党との話し合いで、その対象を憲法問題だけに絞る一方で、選挙権を「18歳以上とする」ということを内々に合意していると伝えられています。
しかし、この国民投票法案が「18歳以上」ということで成立すれば、3年以内に公職選挙法改正によって有権者の選挙権年齢を、現行の「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げることや、民法上の経済的な取引や婚姻最低年齢、また、少年法についても対象年齢を引き下げるなどの法改正に及んできます。
そうしたこともあって、ここにきて党の総務会などでは、“民主党と合意の下で行う”という前提で、選挙権年齢の引き下げをやむを得ないと考えた人などから、「民主党が協力しないで与党だけでこの問題の採決に取り組むならば、公選法にまで影響する“18歳以上への引下げ”については慎重にすべきだ」という意見も少なくありません。ただ、事ここに至っては民主党の対応如何に関わらず、これまでの積み上げによって各党と合意した「18歳以上への引き下げ」はやむを得ないのではないでしょうか。この法案の対応をめぐって混乱し、成立そのものが困難になることも覚悟しなければならなくなる。
“18歳選挙権”をめぐっては、民主、共産、社民など野党のほか公明党も、これを強く支持しているといわれています。選挙権が「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げられることによって、これが選挙結果にどのような影響を与えるかどうかについては、全く予測はつきません。しかし米国やイギリスなど162か国で選挙権は「18歳以上」となっております。
私個人としては、これもまさに「新しい国の形」であり、ここは党が「18歳以上への引き下げ」やメディア規制、公務員などの投票運動の四法則など大筋については与野党間のいわゆる合意に沿って、当初の方針通り対応することが必要だと思っております。
療養棟再編
今、医療関係では、医師不足の問題、平成20年度からスタートする後期高齢者医療制度の問題などがあるが、療養病床の問題が最大の問題となっているので、本日はここに重点を置いてお話したい。長期にわたる療養を必要とする患者のための療養病床は、現在、医療保険適用の病床(約25万床)と介護保険適用の病床(約13万床)がある。医療の必要性が必ずしも高くない方々も多く、在院日数も長い。そうした長期入院患者の方には、本人のQOLのためにも、医療費適正化の観点からも、介護保険を利用していただく方が適切だ。(療養病床の入院者のうち、医師の対応がほとんど必要ない方が約5割。容態急変の可能性が低く、老人保健施設や在宅で対応できる方が約3割。)
こうした観点から、今回の医療制度改革と併せて、医療サービスの必要性の低い方を受け入れている介護療養病床については介護保険の適用を平成23年度末にやめ、老人保健施設などの介護施設に転換していただくこととした。
また、医療保険適用の病床も、神経難病や肺炎等の感染症など手厚い医療サービスが必要なものだけ(平成17年度推計で約15万床)に集約し、医療の必要性の低い方を受け入れている病床は、介護施設に転換していただくこととした。
なお、その際には、施設基準を経過的に緩和して、既存の建物の活用を可能としたり、医師・看護職員等の人員配置を緩和した施設類型を設けたりするほか、転換に対する助成を行うなどにより受け入れ先を確保し、「追い出し」が生じないよう対応している。
先日発表された療養病床のアンケート調査結果を見ると、医療機関の老人保健施設への転換希望は8.5%とまだ少ない。しかし、療養病床への介護保険の適用は平成23年度末でなくなるので、医療機関の方は今から準備を進めることが必要だ。
また、医療保険適用の療養病床についても、近々示される医療費適正化計画の参酌標準を踏まえて、平成19年度中に、各都道府県で地域において今後必要とされる目標数が定められることとなる。この目標数を超える療養病床については、今後老人保健施設やケアハウスなどの介護施設へ転換していただくことが必要となる。
医療機関の方にとって見れば、収入は医療保険適用の療養病床ならば一人当たり月49万円であるが、老人保健施設では月31万円に下がる。しかし、医師・看護職員等の配置も変わり、コストも下がる。
私は、転換先となる老人保健施設については、入所者の方に適切なサービスを提供するため、介護報酬では2通りの評価を検討すべきと考える。従来の老人保健施設については、病院と在宅の中間施設であることから老健施設Aとして従来どおりの評価を行う。
一方、療養病床が転換した受け皿としての老人保健施設は、例えば老健施設Bとして評価する。この場合、現在の入院患者の方々のために日常の看護や施設での看取りなどに対応できる体制が必要となるので、Bタイプの介護報酬は、単価を若干引き上げて評価することが必要となろう。医療機関の方には厳しい時代ではあるが、今後医療機関が地域の信頼を集めながらその役割を果たしていくためには、単に施設を転換するだけではなく、地域の高齢者を支える在宅ケアの拠点を目指すべきだ。
そのため、療養病床が老人保健施設に転換する場合には、その診察室を外来診療所として活用できるようにすることが必要だ。これにより、転換した施設は在宅医療に積極的に取り組むことが可能となる。
また、医療法人の業務の在り方を見直して多角的な経営ができるようにすることが必要だ。例えば医療法人の行える業務はこれまで医療機関や老人保健施設などに限られていたが、今年の4月から有料老人ホームを経営できるようにするとともに、5月から高齢者のケア付き住宅など多様な住まいを経営できるようにしたい。
これにより診療所のバックアップの下に自宅以外の多様な住まいの場における在宅医療が推進され、新しい時代にふさわしい医療と介護の経営モデルを展開することが期待される。
また、真剣に考えている医療機関の動きを後押しするため、(1) 老人保健施設へ転換する場合、更に規制緩和を行い、病院・診療所を問わず現在の建物をほぼそのまま活用できるようにする。(2) 地域で介護施設の整備枠がないといった声に対応するため、現在の第3期介護保険事業計画の中でも年度にこだわらず転換可能にする。といった方策を速やかに検討し、できるものから実施していくべきである。
こうした転換支援方策を実施することによって、療養病床の再編成でお年寄りが追い出されるいわゆる介護難民を発生させないようにしたい。
後期高齢者医療について
後期高齢者医療制度についても、基本的には在宅医療・訪問看護を充実し、住み慣れた生活の場で、家族や友人に囲まれて人生を全うできる形を目指す方向だ。医療関係者は、そうした後期高齢者の生活をどのように支援できるのかを考えていただきたい。
後期高齢者の医療は、その人の生活の場の中で、人としての尊厳に配慮して、本人が安心出来る形で提供されることが必要だ。そのためには、ますは、急性期入院医療から在宅までの流れを作ることだ。医療機関が、患者を中心に、治療計画に基づいて地域で連携し、最終的には自宅に帰す「地域連携パス」の普及が課題だ。
在宅医療を支援する病院や診療所の整備も重要だ。先の診療報酬改定で導入された在宅療養支援診療所は、昨年7月には約9500施設だが、在宅での看取りなどへの対応は、まだまだ今後の課題だ。
在宅重視の方向の下では、開業医の役割が特に重要になる。日頃から患者の生活の場での医療を担当し、患者と信頼関係を構築することが不可欠だ。開業医同士のチームによる連携も必要だろう。
患者が安らかな終末期を迎えるための医療も重要だ。疼痛の緩和を受けられる体制を整え、患者の希望次第では終末期のケアまで実施しなければならない。全人的な地域医療を行う「かかりつけ医」が求められるのだ。
かかりつけ医が在宅の患者から信頼され、夜間・休日の対応が取られるようになれば、病院側の機能が上がる。急性期医療や救急医療における専門性が十分発揮できる体制も取れるようになるはずだ。
このように、地域医療の生活の場で、自分の患者一人ひとりの生活に責任を持ち、看取りまで含めた医療を担うということは、医療の尊厳ともいうべき営みであり、地域の開業医にしか出来ないことだ。だからこそ、私は、敢えて「開業医の復権」が必要だと言いたい。
これまでのような平日昼間の待ちの外来でなく、往診や時間外診療も行う形で、地域の中で、真に患者に信頼される医療を確立するため、一層力を尽くしていくことが求められているのだ。
もちろん、診療報酬でもこれにふさわしい評価が必要だ。夏以降、次の改定に向けた議論が本格化し、後期高齢者医療制度のための新たな診療報酬体系も議論されていく。開業医については、この在宅重視、休日・時間外診療重視の流れを推進していくため、メリハリのきいた評価をすべきではないか。
(京都国際ホテルにて)