今日、急速な少子高齢化の進行、医療技術の高度化など、医療を取り巻く環境が大きく変化しています。その中で、より有効で安全な医薬品を求める国民の声は一層高まっており、薬剤師の皆様方や医薬品をめぐる状況もまた大きな変革期にあります。
一連の医療制度改革の中で、薬局が医療提供施設の一つとして明確に位置づけられることになりました。これにより、病院・診療所との連携体制の構築や在宅医療の推進に向けての「薬局」の存在が地域における医薬品の供給拠点として重要な役割を担うことが求められております。
また、昨年4月からは、関係者の長年の願いだった薬学教育6年制がいよいよスタートし、数年後にはこの新しい教育課程を経た薬剤師が誕生します。薬剤師の先生方が、医薬品の専門家として、また、地域における“かかりつけ”薬剤師として、国民の健康維持・増進や良質な医療の提供に一層のご貢献をいただくことを期待しております。
本日は、今、社会保障制度が置かれている状況と、その中で今後の医療改革の目指す方向、医療サービスの効率化に向けた取り組みについて、お話をさせていただきます。
〔社会保障と財政〕
今日、我が国では急速な少子・高齢化が進行しており、これに伴い、社会保障の国庫負担は増加の一途を辿っており、2007年度政府予算では、社会保障関係費は21兆円を超え、国債費と地方交付税交付金等を除いた政策経費にあたる一般歳出の約45%に達しています。
仮に、社会保障関係費が今までのペースで増大していけば、将来、国の予算は社会保障と国債の償還・利払いだけになってしまうわけで、政府・与党では、4年後の2011年を目指して、国・地方を合わせたプライマリーバランス黒字化という目標のもと、「歳出・歳入一体改革」を進めております。「歳出・歳入一体改革」においては、社会保障分野で、2002年度から2006年度までの5年間と同様に、2007年度以降も5年間に国庫ベースで、1.1兆円の伸びを抑制するという改革努力を継続することとされています。
このため、本年度、来年度とも、2200億円の削減が求められ、本年度は、雇用保険と生活保護の見直しによりこの要請を達成しましたが、来年度予算については、これにどのように対応するのか、これから本格化する予算編成上の大きな課題となっております。
薬価の改定と後発医薬品の利用促進で、約1000億円程度対応し、残りについては、若年の被用者保険間の財政調整による対応が検討されていますが、これは年末に向けて予断を許さない状況であります。
社会保障制度については、2004年の年金改革、2005年の介護保険制度改革、2006年の医療制度改革と、その主要部分を占める年金・医療・介護分野で大きな改革を相次いで実施しておりますが、高齢者医療制度の導入や生活習慣病対策による医療費の適正化、基礎年金の国庫負担割合の引き上げなど改革の重要な中身はこれからの実施となっています。
これからの人口減少社会を乗り切るためのこれらの改革を着実に実施に移し、しっかりと軌道に乗せ、国民の「安心感」を醸成していくことが重要であると考えております。
そもそも社会保障とは、国民誰もが「人間の尊厳」を守れるような生活を保障するための仕組みであります。制度の効率化の努力は必要ですが、診療報酬の引き下げが続き、医療の現場が限界ぎりぎりのところまで来ていると認識しています。また同時に、社会保障改革を進めるに当たっては、どうすれば国民に「安心感」を与えられるのか、ということを基本的な軸に据えて考えることが必要であることも認識しております。
予算編成に向けてもう一つの大きな課題は、基礎年金国庫負担の割合を、現行の3分の1から、2分の1へ引き上げる手立てをどのようにして実現するか、という点であります。先の年金改革では、今後、少子高齢化の進行が見込まれる中、将来の保険料水準の上限を厚生年金で18.3%に固定するとともに、いわゆるマクロ経済スライドを導入し、給付水準を自動的に調整できる仕組みとする、としたことで、中長期的に経済とのバランスが取れた持続可能な制度に改革することができたわけです。しかし、それも、基礎年金の国庫負担割合を2009年度以降2分の1に引き上げることが前提となっています。
2分の1への引き上げには、2009年度であと約2.5兆円という巨額の財源確保が必要となるわけですが、このような額は率直に申し上げて、“歳出のカット”という手段だけでは到底捻出しきれるものではなく、税制改革も併せて考えていかなくてはなりません。
薬剤師の先生方におかれては、年金制度についての話を聞く機会は少なく、ご関心をあまり持たれておられないかもしれませんが、例えば、来年度導入予定の高齢者医療制度の保険料は、年金から天引きされることとなっているように、年金制度の安定は、医療や介護を含めた社会保障全体の要であります。
国民の理解を得る上で、消費税引き上げ分を社会保障のために使うということについて、いわば使途をはっきりと限定することなども今後の課題であり、この問題は、社会保障全体の安定と信頼感を確保する観点からも成し遂げなければならないのであります。
〔医療制度改革について〕
医療制度においても、国民の安心感を確保しながら、将来の給付の伸びをどのように抑えて制度の持続可能性を高めていくかが課題となっています。しかしながら、医療は、年金のような現金給付と異なり、経済動向に連動して自動的に調整できるようなものではありません。政策の積み重ねによる医療費の適正化を進めていかなければなりません。
このため、昨年の医療制度改革では、
・生活習慣病対策や長期入院の是正など、中長期的な医療費適正化を進めるための医療費適正化計画の制度化
・後期高齢者医療制度(75歳以上)、前期高齢者(65歳〜74歳)の財政調整制度といった新たな高齢者医療制度の創設
・政管健保の公法人化や地域型健保組合の創設など都道府県単位を軸とした保険者の再編・統合
・療養病床の再編等、大きな改革
を行ったところであります。
なお、新たな連立政権の発足に当たって、高齢者医療制度の在り方について検討することが合意され、私もメンバーの一人として参加して、与党のプロジェクトチームで検討を行いました。
その結果、
・被用者保険の被扶養者の保険料負担については、半年間凍結、さらに半年間は保険料の9割を軽減
・70〜74歳の医療費自己負担の1割から2割への引き上げについては1年間凍結することが決定され、これらの措置に要する財源については国が負担することにし、予算編成過程で適切に対処することになりました。それは、概算要求基準(シーリング)の外枠で処理されると理解しております。
また、平成21年度以降の高齢者医療制度については、プロジェクトチームで引き続き検討することになっていましたが、現在の仕組みでは、前期高齢者の医療に関して、70歳未満が3割負担、70歳以上が現在は1割負担で新制度では2割負担と、前期高齢者の負担が「分断」されています。
私は、医療制度改革の際にも提案して参りましたが、前期高齢者についても1〜2割の公費を投入して、65歳未満は3割負担、前期高齢者は2割負担、後期高齢者は1割負担というように、年齢によって3割、2割、1割と国民にも理解されやすい仕組みにすべきと考えております。
〔医療サービスの効率化と後発医薬品の利用の促進〕
医療の高度化・専門化が進み、また、救急対応が増加する中、国民に対して適切な医療を確保する上で、診療報酬の引き下げが難しい状況にあることは承知しています。しかし、一方、医療費の伸びの適正化が求められており、生活習慣病対策を進めるとともに、急性期の入院医療から在宅医療・介護までの円滑な流れを作ることが求められています。また、医療の必要度の低い方を受け入れている「療養病床」から「介護施設」への転換を進めながら、急性期の医療や、救急医療や産科・小児医療などの医療の確保が深刻になっている部分に配慮した診療報酬にしていくことが必要であると思っております。
これらはいずれも重要な対策ですが、その効果が現れるのは中長期的であります。ただ、後発医薬品の利用促進は効果がすぐに現れる対策であります。既に欧米でも取り組まれていて、患者負担の軽減にもつながる有効な対策であるため、「医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム」において、後発医療品のシェアを30%以上にするという目標を設定いたしました。この30%という水準は、現状からみると倍増であり、特許切れの半数以上で後発医薬品が利用されると、達成される水準であります。しかし、後発品メーカーの力がまだ弱いことや、医師や薬剤師の後発医薬品に対する知識もまだ十分ではないことから、5年かけて平成24年度までに達成させることが目標となっております。
その間の診療報酬改定は、おおむね2回と考えますと、来年の改定が大きな節目となり、使用促進策として、処方せん様式の変更と、薬局に対する在庫管理コストの評価についての検討が中医協で行われているところであります。
今、中医協で議論している中に、医師の処方箋で「変更不可」としない限り、後発品へ自動的に切り替えが可能となるが、先発品の中にはすでに後発品薬価を下回っているものも出ております。例えば、私も愛用している、塩野義製薬の「ケフェレックスカプセル」は、先発品で1カプセル32円20銭となっていますが、武田が後発品として販売している「センセファリンカプセル」は32円30銭となっているし、構成物資で知られる「アモキシシリン」は、先発品は12円10銭なのに対し、後発品が20円となっています。
医療費抑制の“旗”、後発品薬価の促進を図っているのだから、すでに後発品と同じ価格、あるいは下回っている先発品については、後発品と同様の扱いとしては良いのでないでしょうか。 後発品の備蓄が促進にとって欠かせませんが、なかなか品揃えが十分でないという指摘もあり、150品目とか、あるいは300品目とかの基準を設けて備蓄をして、実際に後発品を調剤しているところについては、重点的に評価すべきだと考えております。
再算定は、私自身好ましいと考えていませんが、今回は財政事情が厳しく、検討せざるを得ない状況にあります。中医協で議論されているのは、高血圧抑制剤の中でもARBと呼ばれている、武田薬品工業などが販売している物が対象とあがってきており、ARBで4千億円の市場があると言われております。例えば、1〜2割抑制するだけで、たいへんな額が出てくることになります。
再算定は、財政事情による“奉加帳”でなく、明確なルール、例えば当初の販売予想量より2倍を超えたら適用するなどとしたらどうかとも考えております。調剤報酬も技術料だけで1.5兆円を超えており、これを有効に使われているかどうか点検すべきだとの指摘もあります。
医薬分業の流れは変わらないし、高齢者診療報酬の議論でも薬局の役割は変わりませんが、これからの5年間、問われるのは、薬局の後発医薬品への対応であると考えております。薬局に在庫コストや説明に要するコストがかかっていることは承知しており、これらに対しては何らかの評価が必要とも認識しております。
しかしながら、全体をプラス改定にする環境にないのも事実。調剤報酬の組み替えにより、努力しているところが評価される体系になっていくべきではないでしょうか。在庫負担についても、個々の薬局、又は地区薬剤師会などで、品目の絞り込みや共同在庫を考えるといった自己努力も必要となっていくでしょう。
また、長期入院の是正に関しては、我が国は欧米諸国と比べても在院日数が相当長く、急性期の病院での医療の後は、住み慣れた家庭や地域で療養できるよう、急性期入院医療から在宅医療・介護までの円滑な流れを作ることが重要であります。新たに創設される後期高齢者医療の診療報酬体系の議論においても、在宅療養における日々の服薬管理等の支援の評価が検討課題として挙げられております。
いずれも薬局、薬剤師の力が試されるチャンスであり、是非前向きに取り組んでいただきたいと考えております。
(虎ノ門パストラル)