◇はじめに
安倍政権が昨年9月に発足し、4か月が経過した。1月25日に国会が召集されるが、今年が安倍内閣にとって正念場だ。春には統一地方選、夏には参院選があり、まさに政治決戦≠フ年である。
安倍総理は、就任まもなく中国・韓国を訪問し、両国との友好関係を確立した。正月早々には、ヨーロッパ各国歴訪、東アジアサミット出席、日中韓首脳との会談と、精力的に「主張する外交」を展開した。対米重視の大方針に変更は無いが、「幅と厚み」を持った外交を展開しなければならない時期なので、これまでやや疎遠だった欧州との絆を強めることができたと思う。
総理がEU(ヨーロッパ連合)の老舗といえる諸国を訪問する一方で、麻生外相が同時期にEUの新興国である東ヨーロッパ諸国を訪問した意義も大きい。民主主義という共通の価値観を持つヨーロッパ各国においては、核や拉致問題等、北朝鮮問題に対する、わが国の考え方を理解してもらえることができた。東南アジア地域は、安全保障上の重要地域であるとともに市場としても大切な地域だ。特に中国との関係では、温家宝首相の4月来日を決めたのとともに、温首相自身が拉致問題の解決について初めて「協力」という言葉を使った点も画期的なことである。
先の国会では、教育の憲法ともいうべき教育基本法の59年ぶりの改正や、防衛省昇格法、地方分権改革推進法など、21世紀のこの国のあり方につながる重要な法案を次々成立させてきた。しかし一方で、復党問題や閣僚の不祥事などで国民の皆様方からご叱責をいただいている。今年はエンジン全開で改革を推進し、国民の皆様の圧倒的信頼を得るよう、努力を続ける。
◇景気、経済・財政等
これまでの5年間、私どもは、「改革なくして成長なし」、「民間にできることは民間に」、「地方にできることは地方に」を基本理念に、構造改革を推進してきた。その結果、わが国の景気は着実に回復基調となっており、4年連続のプラス成長、3年連続の2%台成長を実現した。さらに、今年度、来年度とも、2%程度の巡航速度で成長すると見込まれ、40年前の「いざなぎ景気」を超える息の長い景気拡大が続いている。企業も過去最高の利益を計上しており、企業の経常利益は50兆円台後半と、バブル期を遙かに上回っている。
一方で、景気回復が実感されていないとの指摘もある。「いざなぎ景気」の実質経済成長率は11.5%、「バブル景気」は5.3%だったのに対し、今回は2.4%という低いものである。フンダメンタルスが十分でなかった経済が成就しているから、今回の景気回復では、消費もあまり盛り上がっていないとの指摘もある。とは言え、カラーテレビ、クーラー、カーが「3C」で高嶺の花といわれた40年前の「いざなぎ景気」の頃との比較は言うに及ばず、10年前、20年前と比べてみても、現在はモノがあふれ、道路も福祉も充実している。わが国は確実に豊かになっているのである。
安倍内閣では、さらに「成長なくして財政再建なし」を一つの柱にし、着実にこの景気回復を持続させ、わが国を豊かにすることを使命としている。その中で全力を挙げて取り組まなくてはならないのは、いわゆる格差の問題である。「大都市圏と地方都市圏」、「大企業と中小企業」、「正規社員と非正規社員」の間の格差是正が重要である。この格差是正に当たっては、まず、IT化、イノベーション、再チャレンジの機会を増やすことにより経済成長を促進し、同時に、その果実が国民全体に幅広く行きわたるような改革を進めなければならない。
◇消費拡大に向けた賃金引上げ、非正規労働者対策等
消費が増えるためには国民の懐が暖かくならなければならないが、企業の生み出した付加価値のうち、労働者に支払われる比率=労働分配率は、10年前に比べると大きく低下している。10年前には70%台で推移していたものが、現在は65%程度である。過去、「わが国の賃金は高すぎる」という声もあり、また、国際競争力を乗り切るために企業の経営基盤の強化を図るべきで、労働分配率が低下するのはやむを得ないという指摘もあったが、今は株主配当、役員報酬が増えており、そのしわ寄せが労働者にきている。
労働分配率だけでなく、労働者1人当たりの賃金も、月給ベースでは2000年の28.4万円から、2006年の27.4万円へと1万円減少している。ボーナスは、大企業は増加しているものの、中小企業まで含めると、1997年頃には年間100万円だったものが、現在は85万円程度へと減少している。最近は、経営者は、「労働者にはベースアップではなくボーナスで報いる」というスタンスだが、ボーナスは一時的な所得であり、消費を一時的には増やすが、恒常的に増やすものではない。
賃金が上昇しない背景には、いわゆる非正規労働者化の進行もある。非正規雇用者は、1995年には約2割だったのが、わずか10年で雇用者の3分1を占めるまでに増加した。今の非正規労働者の賃金は安く、企業にとっては人件費抑制の有効な手段だが、これが賃金の低迷と消費の伸び悩みの原因にもなっている。つまり、非正規化は、個々の企業にとっては合理的でも、日本全体から見た場合には必ずしも合理的ではないのではないか。
◇人口減少社会における社会保障
さて、一昨年、わが国の人口は、初めて死亡数が出生数を上回るなど、総人口で約2万人の減少がみられ、いよいよ「人口減少社会」を迎えた。昨年暮に公表された新しい人口推計では、近年の出生率低下や寿命の伸びを反映して、前回推計よりも少子高齢化が一層進み、約50年後の2055年には、合計特殊出生率が1.26となり、65歳以上の高齢者が総人口の40.5%を占める超高齢社会を迎えるという厳しい見通しが示された。
今年は社会保障制度の転換点の年である。戦後の第一次ベビーブーマーである「団塊の世代」が退職期を迎え始めるからだ。これまで働き手の中心となって高度経済成長を担い、社会保障制度を支えてきた人たちが、これからは支えられる側になっていく。8年後の2015年(平成27年)には、1947年から1949年に生まれた「団塊の世代」が、「前期高齢者」と呼ばれる65歳を超え、18年後の2025年(平成37年)には、65歳以上のお年寄りが、現在の約2600万人から、約1000万人増の約3600万人へと増える見通しである。この結果、現在はお年寄り1人を現役世代3.0人で支えているが、2025年にはお年寄り1人を現役世代の1.8人で、さらに2055年には、現役世代1.2人で支えることになる。
こうした人口減少社会、超高齢社会を迎えるに当たり、世の中の見方はとかく悲観的になりがちである。社会の活力が低下するのではないか、あるいは将来の国民負担が増えるのではないか、年金制度が崩壊するのではないか、といったことが言われる。私は、社会保障制度は、こうした時代の状況に今の時点から柔軟に対応していく必要があると考えており、それによって、これからの人口減少社会を乗り切っていくことは十分に可能だと考えている。
◇社会保障と財政
少子高齢化の進行に伴い、社会保障の国庫負担は増加の一途をたどっている。2007年度政府予算では、社会保障関係費は21兆円を超え、国債費と地方交付税交付金等を除いた政策経費にあたる一般歳出の約45%に達している。仮に、社会保障関係費が今までのペースで増大していくとすれば、将来、国の予算は社会保障と国債の償還・利払いだけになってしまう。
政府・与党では、4年後の2011年を目指して、国と地方を合わせたプライマリーバランス(利払費を除いた財政赤字)の黒字化という目標のもと、歳出・歳入一体改革を進めた結果、2007年度予算では、前年に比べ約6.3兆円という大幅な財政健全化が図られた。しかし、約800兆円にも及ぶ気の遠くなるような巨額の財政赤字のもとでは、プライマリーバランス回復は財政健全化の第一歩に過ぎず、社会保障の分野においても、給付の抑制と適正な国民負担の議論は避けて通れない。
しかし、そもそも社会保障とは、国民誰もが最低限度の生活を営む上で、「人間の尊厳」を守れるような生活を保障するための仕組みである。したがって、社会保障改革を進めるに当たっては、どうすれば国民に「安心感」を与えられるのか、ということを基本的な軸に据えて考えることが必要である。経済財政諮問会議は、「マクロ経済指標」に連動して社会保障のキャップをかける(予算規模に限度額を設定する)という総額抑制方式を提案してきたが、これは国民の不安を増大させるだけである。政策の積み重ねによって費用の抑制を図っていくことが重要である。
わが国の社会保障制度は、もともと、良質な労働力を確保する観点から、企業を単位とする強制加入と保険料徴収の制度のもと、事業主にも応分の負担をしていただく仕組みからスタートした。現に2004年度においても、社会保障給付費は85.6兆円だが、その3分の2にあたる53.8兆円が、事業主と本人とが折半で支払う保険料で賄われている。
しかし、急速な少子高齢化が進み、お年寄りが増え現役世代が減少していく中、制度の持続可能性を高めるためには、現役世代の保険料負担のみに頼るのではなく、世代間のバランスを考えていかなければならない。また、現在は、必ずしも高齢者イコール経済的弱者というわけでもない。これからの時代は、低所得者には必要な配慮をしつつ、収入の多いお年寄りには応分の負担をしていただくという考えが必要である。
◇医療制度改革について
昨年の医療制度改革においても、現役世代と高齢世代のバランスを図る観点から、高齢者にも応分の負担をしていただいている。例えば、現役並みの520万円以上の年収のある高齢者は、昨年10月以来、医療費の窓口負担を2割から3割とし、療養病床に入所している高齢者の食費・居住費は在宅並みということで、自己負担をお願いしている。もちろん、所得の低い高齢者の自己負担限度額はこれまで通りとし、75歳以上の高齢者の患者負担は1割のままとしている。一方、乳幼児の患者負担軽減措置(3歳未満、2割負担)も、来年4月から、義務教育就学前まで拡大することとした。
また、政策の積み重ねによる医療費適正化を進めるため、以下のような4つの大きな改革を行った。まず、「生活習慣病対策」と、「長期入院の是正」(全国平均36日。長野県は27日であり、各都道府県間に大きな差があるので、平均30日前後を目指す)である。そのために、中長期的な医療費適正化計画の制度化を行う。
次に、「高齢者医療制度の改革」である。医療費の3分の1は高齢者医療(11兆円)なので、これにいかに歯止めをかけるかが問題だ。そこで、後期高齢者医療制度(75歳以上)、前期高齢者(65歳〜74歳)の財政調整制度といった新たな高齢者医療制度を創設し、独立した医療制度や都道府県単位での運営を実施する。そして、政管健保の公法人化や地域型健保組合の創設など都道府県単位を軸とした保険者の再編・統合である。
最後に、「療養病床の再編」(医療保険適用病床は25万床から15万床へ削減、介護保険適用病床は13万床から全廃し老人保健施設などの介護保険施設へ)である。
これらの改革により、目安としては、2010年段階で、改革前に比べ、給付費で2兆円程度の抑制(33兆円→31兆円程度)、2025年には、56兆円から約8兆円の給付費を削減し、医療給付費を48兆円にとどめることを「目安」としている。
◇生活習慣病対策について
本格的な少子高齢化が進む中、今後の医療政策の重要な課題として、予防対策が必要となってくる。現在の医療費増の最大の要因の一つは生活習慣病である。生活習慣病は、内臓肥満や高血圧・高脂血症・高血糖などの一連の代謝異常(メタボリックシンドローム)から起きる。そして、これらが悪化して、糖尿病などの生活習慣病となり、重症化して心筋梗塞や脳卒中となったりして、急性期の入院から長期入院や長期介護へとつながっていく。
この生活習慣病は予防が可能であり、運動とカロリーコントロールによって、初期段階の代謝異常をコントロールし、先に進まなくすることができる。私も、予防を重視する観点から、(財)日本糖尿病財団の理事をさせていただいているが、糖尿病の予防は、とにかく「身体を動かすこと」と、「規則正しい食事」の二点に尽きる。毎日歩くというのが、一番良いと言われている。
今後、政策として生活習慣病を予防していくためには、一つには、こうした生活習慣を若いときから身につけられるようにすること、すなわち、これを地域の文化として定着させることが大切だ。これには都道府県などの地方自治体の役割が極めて重要である。
もう一つは、健診により生活習慣病になりかけている「危険領域」(いわゆる予備群)の方を早く発見し、個別に指導することである。特に、現在各種健診から外れているサラリーマンの配偶者が課題。職域の保険者である政管健保や健保組合が、地域の保険者である市町村と連携して、職域ぐるみ、地域ぐるみで取り組むことが必要である。こうした予防重視型の事業への転換は、本人の健康長寿のみでなく、わが国全体の医療費を抑えていくために不可欠であり、個々の保険者から見ても、将来の負担増抑制に直結するものとなる。国や地方自治体、健保組合が、徹底してこうした取り組みを進めるべきである。
◇介護保険改革について
介護保険制度は2000年4月に、私が厚生大臣の時にスタートした。介護保険の対象となる要介護・要支援者は、施行当初220万人だったのが、今や420万人超える。高齢者「10人に1人」が対象という状態から、「6人に1人」となり、このままではいずれ、「5人に1人」、「4人に1人」という事態にもなりかねない。利用者急増の最大の要因は、「要支援」や「要介護度1」といった「軽度者」の利用の急増である。これら軽度者は80万人だったものが200万人にまで増大している。一方、今後は中重度や認知症の高齢者の増加も考えられる。こうした深刻化する介護問題に対応していくためには、軽度者に対するサービスの見直しやスリム化とともに、中重度者や認知症ケアの充実、すなわち、「給付の重点化」が必要となる。
将来的には、軽度者に対する「予防給付」を給付から外して、地域支援事業に統一することも検討課題である。そもそも要支援者への「予防給付」は、制度導入時に国民に保険料負担をお願いするに当たり、理解を求めるため、「受給機会をできる限り拡げる」趣旨で導入。制度が一応定着した時点で、今後「給付の重点化」への舵を切ることが必要である。ドイツの介護保険制度と同様に、日本の「要介護度3」以上に当たる中重度者を重点的にケアすることも考えなければならない。
◇年金制度改革について
先の年金改革では、今後、少子高齢化の進行が見込まれる中、基礎年金国庫負担の引き上げと積立金の活用を行うことにより、保険料の上昇を極力抑制しながら、将来の保険料水準の上限を厚生年金で18.3%に固定する。一方で、年金の総給付費の抑制のため、これまでは賃金や物価に応じて年金額をスライドさせていたものを、平均余命の延びや年金を支える力である被保険者数の減少を反映させて、年金額の伸びを抑える仕組みであるマクロ経済スライドを導入し、給付水準を自動的に調整することとした。この結果、年金制度については、中長期的に経済とのバランスが取れた持続可能な制度に改革することができた。
同時に、少なくとも5年に1度、年金財政の検証を行い、その結果、モデル的な年金給付について、現役所得に対する割合である「所得代替率」が50%を下回ることが見込まれるときには、給付と負担の在り方全体について再検討することを、法律に明記した。これは、「所得代替率50%を今後とも維持していく」という政治の強い決意を表したものである。
確かに出生率は予測を下回って推移しているが、年金財政は、出生率だけでなく、経済の状況でも影響を受ける。したがって、今の段階で将来を見通すことは難しい面もあるが、率直に言って、このまま少子化の傾向が続くようであれば、今から20年後の2025年時点では、所得代替率50%程度を維持することが難しくなる可能性もあながち否定できない。しかし、国民の安心感を確保していくためには、何としても、所得代替率50%程度の線は守るべきだ。そのためには、仮にそうなったときには、負担と給付の問題をもう一度真剣に考えなくてはならない。
年金は国民の支え合いの制度である以上、支える側も支えられる側も更に少しずつ我慢することが求められるかもしれない。例えば、今まさにドイツで議論されているような支給開始年齢を67歳まで引き上げることも、10年先や15年先には真剣に検討しなければならない課題となるのではないか。(支給開始年齢が65歳となるのは2025年度(=昭和36年4月生まれ以降の男子〜)
一方、加入年齢についても、再検討する必要がある。国民年金の未納、滞納問題が指摘されているが、特にかねてから実態にそぐわないと思っているのは、国民年金の対象年齢が20歳から60歳までの40年間とされていることである。受給は65歳からなので、60歳定年制の元では、65歳までの5年間は、いわば給付の待機期間となっている。しかも、国民年金は、20歳からが対象であり、未就業の大学生も多い。免除制度もあるが、これだけの保険料を現実問題として親が負担しなければならないケースも少なくないといった指摘もある。国民年金保険料は、現在月額13,860円だが、この4月から14,100円に引き上げられる。
この際、20歳から40年間という仕組みを見直し、25歳から加入としてはどうか。25歳から65歳までの40年間加入する仕組みに見直しても、制度的には不都合はないのではないか。年金の支給開始年齢が65歳からとされていくのに合わせ、定年も65歳まで延長されていく。これを考えれば、25歳から65歳とすることにより、就労期間と年金受給とが接続することとなり、円滑な生活設計にも役立つのではないか。
同時に、これによって、そもそも就業率の低い20歳から25歳については対象から除外し、新たに60歳から65歳に支え手となっていただくこととなる。そうすれば、納付率も向上し、制度の安定性も高まるのではないか。この件については、政府も直ちに検討し、着手して頂きたい。
◇厚生年金、共済年金一元化(職域部分の取扱い)
年金一元化の議論の中で、現在、被用者年金の1階・2階部分を一元化することとの関連で、公務員共済の職域部分の取り扱い案の検討が大詰めを迎えている。すでに、被用者年金の1、2階を一元化することは決着済みだが、問題は職域部分に代わる新しい制度をどのように創設するかである。
今、政府内で検討されているのは、サラリーマンと公務員について、年金だけでなく退職金も含めて退職後に支払われる所得保障そのものが、同一水準となるように職域部分を設定するとの案が浮上している。公務員の場合、現行制度でも1階・2階部分と3階部分とを特に区別せずに公的年金として一体的に保険料を徴収していること、また、官民比較をするに当たっては老後の所得保障全体で比較すべき、との考え方によるものだ。
しかし、私としては、現段階でこの案で一元化法案を取りまとめてよいものかどうか、率直に申し上げて、悩ましいところだ。もちろん、職域部分も含めて官民同一水準とすること自体に異論があるわけではない。しかし、民間では、おおむね退職一時金の比重が低く、企業年金は、特にその事業主負担の比重が高くなっていて、労使折半を負担する公務員とは基本的な構造が異なるにもかかわらず、これを単純に比較してよいものかどうか、また、公務員について、民間と同じ税金の投入が大部分を占める企業年金を導入することが適当かどうか、ということがある。
さらに、今国会の最大の課題と見込まれる公務員制度改革との関連がある。公務員の退職金については、民間と比較して高すぎるとの指摘もある中、仮に公務員改革でこの退職金水準つまり土台を見直すこととなった場合には、せっかく作った3階部分の水準も改めて一から見直さなければならない。私は、仮に一元化法案を3階部分も含めたものとし、理解が得られにくい、さらなる場合には、この見直しによって、全体の一元化そのものが遅れることとなるのではないか、ということを懸念するものである。
そもそも、今回私どもが取り組んでいるのは、あくまでも被用者年金制度の一元化であって、公務員の退職金のあり方まで言及するつもりはない。したがって、現時点では、見通しの立ちにくい3階部分はとりあえず切り離し、1階・2階部分の一元化を確実なものとし、国民に将来の年金制度の姿をしっかりと示すことによって安心感を与えていくことが、年金制度の将来を考えたときにはよいのではないか。かねて年金の官民格差のシンボルと見られてきた3階部分については、公務員制度改革の結論を踏まえて決着すればよいのではないか、という考えもある。年金の一元化は、公務員制度改革の1丁目1番地とも言える。私は、いずれにしても、年金一元化を契機に、公務員改革が最初から腰砕けになってはいけないと危惧するものである。
いずれにしても、職域部分が廃止されるのは平成22年からであり、それまでは今のシステムが存続するということである。また、法案の提出は3月半ばで時間もあることから、この点については、政府・与党で十分検討して、国会での議論に耐えられるものとしなければならないと考えている。
◇社会保険方式と税方式
このように、年金制度の抱えている今の課題を一つ一つ解消することにより、年金制度は、少子高齢化時代にも十分対応できる仕組みになる。もちろん、年金制度の一元化の動向や、積立金の運用問題なども含め、引き続き総合的に検討していかなければならないが、いたずらに不安をあおるのではなく、改革を進めながら、現に年金制度に加入している方々に現役収入の50%給付をしっかり守ることを約束することが第一である。
私どもは、昨今の一部の議論に見られるように、安易に「社会保険方式」から「税方式」へ、という転換を模索することは考えていない。民主党などが提案している「税負担方式」は、保険料を収めた人も納めない人も区別せず、つまり、負担の如何にかかわらず給付を行うということ。これでは負担と給付の関係を否定することになる。
民主党の主張する「何でもすべて税金で」という考え方は、自らの努力なしに給付だけはしっかり受けるというものである。その財源は若い世代や将来の世代へのつけ回しになり、結局のところ、今の自分たちの世代さえよければいいという考え方であろう。これでは、今でさえ巨額の負債を抱えたわが国の財政を破綻に追い込み、ひいては社会保障制度そのものの崩壊を招くことになる。基本的な考え方において誤りと言わざるを得ない。
私は、責任ある政権与党の一員として、私どもの子どもの世代、孫の世代の負担まで考えた上で、あくまで、健康で収入のあるときには自らの老後を考えて応分の負担(保険料の納付)を行って、現在のお年寄りの年金を賄い、老後を迎えたときは、次世代の人たちに扶助してもらうという「自立と相互扶助」に基づく社会保険方式を守るべきだと考えている。
◇おわりに
わが国は、世界に冠たる「国民皆保険制度」、「皆年金制度」を持った国である。一昨年のアメリカのハリケーン・カトリーナは、災害の大きさという点でも世界の注目を集めたが、それ以上に、極めて貧しい階層の人たちの存在とその暮らしぶり、つまり、繁栄する超大国アメリカの“光と影”が白日の下にさらされた、という点でも世界の耳目を集めた。
幸い、わが国は、そこまで歴然とした大きな格差社会ではないが、最近では、日本にもごく一部の人たちが非常に豊かになり、逆に非常に貧しい生活を強いられる層も存在する、悪い意味でのアメリカ的社会が到来するのではないか、との不安を感じている人もいる。米国では上位1%の人たちが国富の半分近くを占めていると言われるが、日本を断じてそういう大きな格差のある社会にしないためにも、高齢者や低所得者も安心して生活できるわが国の社会保障制度を、将来にわたって維持していかなくてはならない。
もちろん、人口増が当然の時代に作られた制度を、人口減少時代に即した制度設計に切り替えていくのは現実問題として大変なことである。しかし、それを乗り越え、世代間の公平や、給付と負担のバランスを確保しつつ、持続可能な制度設計を示して、着実に現実のものとして実行していくことが、政治の責任であり、国民の「安心感」につながるものと固く信じる次第である。
(水戸プラザホテル)