今日、高齢化が急速に進み、男性の平均寿命は七十九歳、女性の平均寿命は八十五歳を超えるという状況の中で、いわゆる生活習慣病に対する対策の在り方が問われております。
とりわけ、高齢期の死亡や介護の大きな要因になっている脳卒中や脊髄の問題が、患者にとって大きな感心を呼んでいるところであります。
私は、これまで、主に厚生労働、社会保障関係に力を入れて参りました。これは政治の根源は、国民が心も体も豊になることであるからだと考えているからであります。
〔社会保障と財政〕
我が国では急速な少子・高齢化が進行しており、これに伴い、社会保障の国庫負担は増加の一途を辿っております。
2007年度政府予算では、社会保障関係費は21兆円を超え、国債費と地方交付税交付金等を除いた政策経費にあたる一般歳出の約45%に達しております。
仮に、社会保障関係費が今までのペースで増大していけば、将来、国の予算は社会保障と国債の償還・利払いだけになってしまいます。
政府・与党では、4年後の2011年を目指して、国・地方を合わせたプライマリーバランス黒字化という目標のもと、「歳出・歳入一体改革」を進めているが、「歳出・歳入一体改革」においては、社会保障分野で、過去5年間と同様に、2007年度以降も5年間で国庫ベース1.1兆円の伸びを抑制するという改革努力を継続することとなっております。
このため、本年度、来年度とも2200億円の削減が求められ、本年度は、雇用保険と生活保護の見直しによりこの要請を達成しました。しかし、来年度予算については、これにどのように対応するのか、これから本格化する予算編成上の大きな課題となっています。
薬価の改定と後発医薬品の利用促進で、およそ1000億円程度対応し、残りについては、若年の被用者保険間の財政調整による対応が検討されております。
社会保障制度については、2004年の年金改革、2005年の介護保険制度改革、2006年の医療制度改革と、その主要部分を占める年金・医療・介護分野で大きな改革を相次いで実施いたしました。
しかも、高齢者医療制度の導入や生活習慣病対策による医療費の適正化、基礎年金の国庫負担割合の引上げなど改革の重要な中身はこれからの実施であります。
そもそも社会保障とは、国民誰もが「人間の尊厳」を守れるような生活を保障するための仕組みであります。制度の効率化の努力は必要であるが、診療報酬や介護報酬の引下げが続き、医療や介護の現場が限界ぎりぎりのところまで来ていると認識しております。
予算編成に向けてもう一つの大きな課題は、基礎年金国庫負担割合の2分の1への引上げをどのように実現するか、という点であります。
先の年金改革では、今後、少子高齢化の進行が見込まれる中、将来の保険料水準の上限を厚生年金で18.3%に固定するとともに、いわゆるマクロ経済スライドを導入し、給付水準を自動的に調整できる仕組みとし、中長期的に経済とのバランスが取れた持続可能な制度に改革することができたわけですが、それも、基礎年金の国庫負担割合を2009年度以降2分の1に引き上げることが前提になっています。
2分の1への引上げには、2009年度であと約2.5兆円という巨額の財源確保が必要となる。このような額は、率直に申し上げて、歳出のカットだけでは到底捻出しきれるものではなく、税制改革も併せて考えていかなくてはならないとも思っております。
例えば、来年度導入予定の高齢者医療制度の保険料は年金から天引きされることとなっているように、年金制度の安定は、医療や介護を含めた社会保障全体の要であります。
税制改革でまず取り上げられるのが、消費税引上げであります。段階的に税率を上げ、その税収は社会保障のためだけに使うということ、いわば使途をはっきりと限定することにより国民の理解を得ることは必要であります。そしてこの問題は、社会保障全体の安定と信頼感を確保する観点からも避けては通ることは出来ないですし、成し遂げなければならない事であると考えております。
〔医療制度改革について〕
医療制度においても、国民の安心感を確保しながら、将来の給付の伸びをどのように抑えて制度の持続可能性を高めていくかが課題であります。
しかしながら、医療は、年金のような現金給付と異なり、経済動向に連動して自動的に調整できるようなものではない。政策の積み重ねによる医療費の適正化を進めていかなければならない。
このため、昨年の医療制度改革では、
- 生活習慣病対策や長期入院の是正など、中長期的な医療費適正化を進めるための医療費適正化計画の制度化
- 後期高齢者医療制度(75歳以上)、前期高齢者(65歳〜74歳)の財政調整制度といった新たな高齢者医療制度の創設
- 政管健保の公法人化や地域型健保組合の創設など都道府県単位を軸とした保険者の再編・統合
・療養病床の再編
等、大きな改革を行ったところであります。
これらの改革により、目安としては、2010年段階で、改革前に比べ、給付費で2兆円程度の抑制(33兆円→31兆円程度)、2025年には、約8兆円の給付費を削減し、医療給付費を48兆円にとどめることを「目安」としております。
医療制度改革に関しては、福田新総理のもと、新たな連立政権の発足に当たって、高齢者医療制度については、70歳から74歳までの窓口負担の1割から2割への引上げ、及び75歳以上の新たな後期高齢者医療制度における被扶養者からの保険料徴収の凍結について、早急に結論を得て措置することが合意されました。
高齢者医療については、現在の仕組みでは、前期高齢者の医療に関して、70歳未満が3割負担、70歳以上が現在は1割負担で新制度では2割負担と、前期高齢者の負担が「分断」されております。
私は、医療制度改革の際にも提案して参りましたが、前期高齢者についても2〜3割の公費を投入して、65歳未満は3割負担、前期高齢者は2割負担、後期高齢者は1割負担というように、年齢によって3割、2割、1割と国民にも理解されやすい仕組みにすべきと考えております。
そして、医療の高度化・専門化が進み、また、救急対応が増加する中で、脳卒中等に対する適切な医療を確保する上で、診療報酬の評価を見直さなければなりません。
医療費の伸びの適正化が求められている中、急性期の入院医療から在宅医療・介護までの円滑な流れを作り、また、医療の必要度の低い方を受け入れている療養病床の介護施設への転換を進めながら、急性期の医療、また、救急医療や産科・小児医療など医療の確保が深刻になっている部分に配慮した診療報酬にしていくことが必要であるとも考えております。
〔生活習慣病の予防と在院日数の短縮〕
生活習慣病の予防と在院日数の短縮・在宅医療の推進も課題となっております。
現在の医療費増の最大の要因の一つは生活習慣病ですが、これは予防が可能であります。政策として生活習慣病を予防していくためには、
・運動習慣の徹底と食生活の改善など健康な生活習慣を若いときから身につけられるようにすること
・健診により生活習慣病になりかけている「危険領域」(いわゆる予備群)の方を早く発見し、個別に指導することが重要
これには、職域の保険者である政管健保や健保組合が、地域の保険者である市町村と連携して、職域ぐるみ、地域ぐるみで取り組むことが必要であります。国や地方自治体、健保組合が、徹底してこうした予防重視の取組みを進めるべきであります。
我が国は欧米諸国と比べても在院日数が相当長く、急性期の病院での医療の後は、住み慣れた家庭や地域で療養できるよう、急性期入院医療から在宅医療・介護までの円滑な流れを作ることが重要だと考えます。
医療機関の機能分化を進め、疾病ごとに、急性期から回復期、在宅医療といった、治療の流れに応じた医療機能を確立する。その上で、これらの医療機関が、地域の中で、治療計画に基づいて、患者を中心に連携し、最終的には自宅に帰す「地域連携パス」の体制を普及させていくことが課題であります。
〔おわりに〕
わが国は、世界に冠たる国民皆保険制度、皆年金制度を持った国であります。
アメリカのハリケーン・カトリーナは、災害の大きさという点ででも世界の注目を集め、それ以上に、極めて貧しい階層の人たちの存在とその暮らしぶりを目の当たりとしました。
これは、我が国とアメリカの保険制度の違いを表しております。我が国では、所得の高い人も少ない人も、平等に医療を受けることが出来ます。これが国民皆保険制度であり、国民皆年金制度であります。
このような、国民が安心して生活できる我が国の社会保障制度を、将来にわたって維持して行かなくてはなりません。
人口増が当然の時代に作られた制度を、人口減少時代に即した制度設計に切り替えていくのは、現実問題として大変なことでありますが、それを乗り越え、世代間の公平や、給付と負担のバランスを確保しつつ、持続可能な制度設計を示して、着実に現実のものとして実行していくことが、政治の責任であり、国民の「安心感」につながるものと固く信じる次第であります。
(グランドプリンスホテル新高輪 国際館パミール)