私の地元である茨城県土浦市とかすみがうらの両市に位置する県立霞ヶ浦環境科学センターは、3年前の2005年4月にオープンした。
同センターは、平成7年につくば市と土浦市で開催された『第6回世界湖沼会議』でその設置が提唱されたもので、霞ヶ浦をはじめとする茨城県内の湖沼・河川の水質環境や大気環境などの保全に取り組むため、常勤のスタッフ32人の他、非常勤48人も加わって運営する、言わば県内の環境対策の“指令塔”的な存在である。
戦後しばらく私が身を寄せていた玉里村(現在の小美玉市)にある母の実家から、私は、霞ヶ浦に浮かぶ「帆引き船」をよく見ながら子どもの時代を過ごした。
当時はワカサギや白魚が豊富に獲れ、午後3時のおやつと言えば塩のきいたワカサギを、汚れていない手の甲にのせてよく食べたものだ。
確か、現在の小美玉市・玉里文化センター前あたりの天の宮と言うところに「一本松」があり、そこに脱いだ衣服を引っ掛けて泳いだ記憶もある。
水に潜っては、貝殻が黒いことから“カラス貝”と呼ばれていた淡水貝を採ったものだ。それだけに、私には霞ヶ浦に対して人一倍思い入れがある。
再び“泳げる湖に甦れ”―。その熱い思いを秘めて、私は霞ヶ浦環境科学センターを訪れた。同センターは土浦市、かすみがうら市の両市にとって、浄化に対する取り組み姿勢が問われるとあり、どちらに設置するか、その争奪戦が熾烈を極めたことで知られる。
私は、まずセンター長室に案内された。こぢんまりとした部屋で前田修センター長は開口一番、こう説明をした。「私の部屋がちょうど両市の境界線です。エントランスホールや展示場は土浦市ですが、隣の低温室や大気分析室などは、かすみがうら市です」と。 霞ヶ浦は、滋賀県にある琵琶湖に次いでわが国で2番目に大きい湖であり、茨城県はもとより、首都圏にとっても重要な水資源だ。その美しい景観は名峰筑波山とともに多くの人々に親しまれている。ところが、近年、水質汚染の発生源である生活排水や農業排水などの汚濁物質の流入に加えて、水深が平均4メートル、深いところでも7メートルと浅いこともあって、COD(水中の有機物を酸化剤で分解する際に消費される酸化剤の量を酸素量に換算したもの)が、1リットルあたり7.7ミリグラムと水質悪化が深刻だ。
かつて昭和30年代は、COD4〜5ミリグラム/リットルであったのが、半世紀の間に2倍近い数値で汚染されたわけだから、生活排水対策として下水道や農業集落排水施策を、また、リンや窒素化合物対策として高度処理型浄化槽の整備を急がなければならない。さらに、工場などの排水量の引き下げや畜産による汚染対策の強化も求められている。
センターの展示場には霞ヶ浦と琵琶湖の深さが一目で分かるプラスチック製の模型があるが、琵琶湖の平均水深は41.2メートル、最大水深で103.6メートルと、霞ヶ浦の13倍以上の深さだ。
ちなみに本年7月に先進国首脳会議(サミット)が開かれる洞爺湖は、平均水深117メートル、最大水深180メートル。日本で最も水深がある秋田県の田沢湖は、平均水深280メートル、最大水深423.4メートルである。流域が平地で面積も広く、水深の浅い霞ヶ浦は、その浄化対策がいかに難しいことか。
私は、霞ヶ浦に不法投棄された家電や家具などを並べて“部屋”に見立てた展示場に案内されて唖然とした。展示ボードにはこう書かれている。
『私たちの家にあって、霞ヶ浦に無い物はありません。(新品はありません)私たちが処分に困って捨てた物は、台風や大雨で山や川によって霞ヶ浦にたどり着きます。そんな物を集めて部屋にしてみました』
もちろん、どれもきれいに洗って陳列された物だが、立派な部屋の調度品はまるで新品同様だ。とても不法投棄された物とは思えない。私は複雑な思いだった。

(不法投棄された家庭用品を集めた展示場にて)
国土交通省霞ヶ浦河川事務所では3年前から、ゴミの不法投棄防止のための「霞ヶ浦ごみマップ」と「水質事故マップ」を作成している。湖岸に捨てられたごみの実態を多くの人に知ってもらい、不法投棄の防止を呼びかけることを目的としたものだ。
霞ヶ浦には約2万5千トンものゴミがあると言われている。霞ヶ浦河川事務所では河川パトロールによってゴミを撤去しているが、年間6千万円の予算をかけても減らないのが実情だという。
私は、霞ヶ浦浄化には沿岸周辺で生活する人々の環境問題に対する意識の高揚が先決だと痛感した。
いま、霞ヶ浦環境科学センターのサポーターとして市民約400人が参加し、NPO法人など80団体がセンターに登録して、ゴミ回収事業などに積極的に協力している。また、同センターには年間7万人の小中学生が訪れ“環境学習”をしているが、子供の時から環境問題に対する理解を深めることは大変意義のあることだ。
私が環境科学センターを訪れた翌日、同センターのサポーターなど約30人がマイクロバスに乗って朝の9時から夕方まで、霞ヶ浦流域の視察に出かけた。私の事務所からもスタッフの1人が参加をした。この視察は、霞ヶ浦に流入する河川の水質の現場を実際に見ることによって今後の浄化対策に役立てようとの狙いから実施したものだ。
実際、湖沼の富栄養化の原因は、湖に流れ込む窒素やリンが原因となっている。その実態を調べるのが、この日の目的の一つである。霞ヶ浦の水質基準を達成するためには、個々の河川の水質を管理することが重要となってくるからだ。今回、自然河川に近い恋瀬川、都市下水路として整備された山王川、農業地域を流れる巴川を視察したことで、一口に汚染と言っても流域環境により水質が変わることがよく分かったという。
茨城県は、霞ヶ浦の水質浄化を目指した総合的な流域対策を平成20年度から本格化させる方針だ。これまで水田や畑からの汚濁対策が全くなされていなかっただけに、沿岸の水田の農業排水や灌漑施設を整備することは、大きな前進と言えよう。
さらに、茨城県はこの4月から森林湖沼環境税を導入する。霞ヶ浦をはじめとする湖沼や河川や森林を守るための財源を確保することを目的としているもので、個人は1人年間1000円だ。事業所など法人を含めて約16億円の税収を見込んでいるという。
県民の環境問題に対する再認識によって、「自ら支えている」という意識の高揚に役立てようというもので、すでに全国28県において同趣旨の地方税を導入している。
同センターの視察の最後に、私は、「あなたから霞ヶ浦へ」のコーナーで足を止めた。センターを訪れた子供達が思い思いの感想を書いている。10歳の女の子は、「昔は霞ヶ浦で泳いだそうですが、私は泳いだことがありません。一回でも良いから泳ぎたい。」と書き残していた。
私の同センターの訪問は、1時間以上にわたったが、霞ヶ浦沿岸で生活をし、霞ヶ浦に思いを寄せる者として、そして政治家の1人として、環境問題に対する価値ある勉強をさせてもらった思いだ。
(丹羽記)