つくばエクスプレス(TX)が開通してから、この(平成20年)8月には4年目に入る。開通した平成17年当時は、1日の利用客は15万人だったが、その後順調に乗客数が増え続け、2年後の19年11月には24万人を超え、「平成22年に27万人」という乗降客数の大きな目標達成も実現可能なところまできた。
乗客は都心へ(あるいは都心などから)の通勤・通学客はもちろん、東京や埼玉などから茨城に遊びにやってくる人たちも多く、筑波山とその周辺を訪れる観光客は、TXの開業により、それまでの5倍になり、約40万人も増加しているという。
TXは、首都圏新都市鉄道株式会社が運営しているもので、総工費は約8300億円。そのうち14パーセントを東京、茨城、千葉、埼玉の各都県が出資し、沿線の自治体も株主となるなど、首都圏の沿線地域が一体となった交通機関となっている。
TXの開通は、予定より1か月前倒しされ、平成17年8月24日に行われ、電車通学の生徒や学生の秋の始業に間に合った。ところで、その開通は、8月30日が、いわゆる“郵政解散”の総選挙の公示日で、激しい選挙戦開始の1週間前だった。
開業区間は、日本最大の研究学園都市間・つくば市と、今や、わが国のみならず世界のITの拠点とも言える東京・秋葉原とをそれぞれ始発駅とする、58.3キロメートルで、それがわずか45分で結ばれる。全線が高架か地下なので、「わが国で踏切が一つも無い鉄道は、このTXと新幹線だけ」というのも自慢の一つだ。それだけに鳴り物入りで華々しくスタートしたが、実は、関係者にとっては、「果たしてどれだけの人が利用してくれるのか」と“不安”を抱えての開通であった。

(つくばエクスプレスを視察する丹羽代議士)
私がTXに初めて乗ったのは、開通してまだ10日足らずの9月1日の朝だった。選挙戦に入って3日目のこの日、つくば市にいた私は、選挙区最南端のつくばみらい市(旧伊奈町・谷和原村)での遊説へ、この新しい電車に乗って向かったのだ。こうした経験は初めてのことで、「にわゆうや」の“タスキ”を掛け、つくば駅から意気揚々と乗車した。ところが、開通したばかりだからか、かなりの乗客が乗っているのに、だれも私には目もくれず無関心を決め込んだ様子だった。先がやや暗い気持ちになったが、4駅目の「みらい平駅」で降り、エスカレーターを上って駅前に立つと、旧谷和原村の鈴木亮寛村長(現茨城県議会議員)らをはじめ、支持者が大勢出迎えてくれた。
みらい平駅は、住宅や商業施設のために広々と整地された土地の中にポツンと立っていた。ドーム型のグリーンの屋根がとても印象的である。私は、昨年8月、つくば平駅から歩いて5分ほどのところに引っ越してきた大相撲の名門、立浪部屋の開所式に招かれた。立浪部屋は両国にあった部屋が手狭になったため、“乗り換え1回で両国国技館まで約50分”というアクセスとゆったりした住環境を考慮し、つくばみらい市への移転を決断したのだと言う。
第7代立浪耐治親方は、元小結の旭豊。部屋の力士は十両の猛虎浪など現在7人だが、年寄・雷(いかずち)知郎や行司、呼出、床山を含めると総勢13人となる。立浪部屋はかつて、春日山部屋だった第4代立浪の緑山鳥友之助が大正時代に創設し、双葉山定次、羽黒山政司ら二人の名横綱の他、多数の関取を輩出した。
土俵開きでは現在の横綱、白鳳の土俵入りが披露され、約500人のファンが詰め掛けたが、私は挨拶の中で、希代の大横綱双葉山が69連勝で敗れた時、師と仰ぐ東洋思想家の安岡正篤先生に「未だ木鶏(もっけい)たりえず」という電報を打ったエピソードを紹介した。「木鶏」とは荘子の言葉で、本当に強い闘鶏は何事があろうとも木彫りの鶏の様に素然としているという意味だが、あの双葉山にさえ「木鶏たりえず」と言わせるほど、相撲道は厳しい世界だと言うことなのだ。実は、私は座右の銘として「木鶏」を掲げており、自分自身も「木鶏でありたい」と願っている。
この立浪部屋の目と鼻の先の駅に隣接した場所には、今、18階建てで660戸が入居する茨城でも最大級のマンションが建っている。つい数年前まで、何もなかった、このみらい平駅前には分譲住宅も次々に売り出され、いずれも即売に近い状態だという。これは、TXの他の駅前周辺も同様で、マンションや戸建住宅と並んで、大型商業施設やスーパーなどが進出し、開通前とは大きく様変わりをした。
当然ながら、ターミナルのつくば駅前も大きく変わった、TX開通後、駅と直結した茨城県内最大のショッピングモール「クレオスクエア」ができた。また、この秋には業務施設として銀行などが入居する常陽つくばビルも完成の予定だ。一方、つくば駅から一つ東京寄りの研究学園駅近くでは、やはり今年秋、大型スーパーからシネマコンプレックスまで入る北関東最大級の大型商業施設がオープンの運びである。
宅地開発や商業施設の建設だけではない。TXの利用促進対策として、最寄り駅から自然や文化施設、イベントにアプローチを促す企画も次々立てられている。春は、筑波山の梅まつり、夏は、つくばみらい市小張・高岡の愛宕神社で行われる、400年の歴史を持つ国指定重要無形民俗文化財の綱火。11月には例年、参加者が1万人を越える、つくばマラソンなど、様々な行事を“TXで!”とPRしている。
この他、昨年7月に、古民家「つくばスタイル館」がオープンした。山暮らしと「つくばスタイル」の象徴として、広く地域の人々に貸し出し、地域コミュニティの拠点として浸透しつつある。つくば駅発のバスで研究学園都市の研究機関を見学する「つくばサイエンスツアー」も人気である。修学旅行も、平成19年度、全国から120校が来訪(平成18年度は74校)しており、今後の観光、地域振興につながるものと期待されている。
私は、TXが開通して3か月後、北千住に住む鴨下一郎代議士(現・環境相)と、秋葉原駅からつくば駅まで、TXに全線の試乗をしてみた。夕方ということもあって、車内はほぼ満員だった。途中、地上に出たあと、北千住辺りはビルや道路も電気が煌々(こうこう)と輝き賑やかだが、茨城に近づくにつれ、明かりが少なくなって来る。駅の周辺はともかくとして、車窓から見える途中の光景は、明かりが次第にまばらになる。守谷駅を過ぎ、みらい平駅を出たあたりからは、さらに暗くなってきて、まだまだ開発の余地がある証拠だと強く印象に残った。
研究学園駅、つくば駅などTX沿線では、茨城県内だけで8地区、約1733ヘクタールの区域で、10万人を見込む土地区画整理事業が行われている。都市再生機構によると、TX沿線開発の全体計画では、沿線開発18地区、開発面積2900ヘクタール、計画人口は約23万7千人で、まさに“民族大移動”ならぬ“人口大移動”が始まりつつある。“豊かな自然を残しつつ、その中で利便性に富む都市機能とゆとりある住宅空間を調和させる” ---そんな21世紀の居住スタイルをリードするモデル的なまちづくりが始まった。
先日、私が会長を務める「つくばエクスプレス利用・建設促進議員連盟」の総会が都内で開かれた。国交省、都県、関係市区の関係者らが多数詰めかけ、熱気に溢れたが、議員連盟の残された大きな課題は、TXを秋葉原駅から東京駅まで延伸させることにある。東京駅延伸が実現すれば沿線の魅力がさらにグッと向上し、沿線開発にも一層の弾みがつく。利用者の増加が見込まれるとともにTX会社の経営基盤の確立に繋がることにもなる。
総会では、市原健一つくば市長、飯島善つくばみらい市長を先頭に、茨城、千葉の関係市長が顔を揃え、国会議員を代表して私が、「東京駅延伸への要望書」を受け取った。念押しをするかの様につくば市長は長文となる要望書をわざわざ読み上げた。
その中で、私が特に関心を持ったのは次のくだりである。「鉄道整備に係る建設費9400億円から8300億円に縮減されたことに伴い、発生する出資金の『余剰分』を東京駅延伸の課題となる事業費の財源に充当すべき」という部分である。これで、新たな財政負担なしに東京駅延伸が実現可能となる。
この要望に先立ち、国土交通省鉄道局は「つくばエクスプレス東京延伸に係るケーススタディ調査について」という資料を説明していた。この資料によると、(1)TX東京駅の設置は丸の内仲通り、概算事業費が約1000億円、(2)秋葉原〜つくば間の輸送人員27万人を確保することが必要、(3)東京駅におけるTXと他路線との乗り継ぎ時間短縮が有効、と書かれている。
余剰金は、秋葉原から東京駅延伸への事業費とちょうど同じ1000億円だ。住民にとって便利な快速電車が通っただけで、街がこんなに様変わりするものであることを、目の当たりにしてきた私は、TXの東京駅延伸は決して夢のまた夢などという話ではないし、何とか実現させたいとの実感を持った。
「つくばエクスプレス利用・建設促進議員連盟」として、この問題に全力を尽くす決意だ。最近はややもすると後ろ向きな暗い話題ばかりだが、「つくばエクスプレス」には私どもの夢と希望がいっぱい詰まっている思いである。
(丹羽記)